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困る。
そういうのが一番困る。だから起きている者との交渉はしたくない。
俺達サンタは物は生み出せても、生物は産み出せないのだ。それは神様にしか許されていない行為だから。
俺は考えて、一瞬にして行動に移した。
少女には、俺が子猫を左手から出している様にしか見えなかっただろう。
だが、実際の手順は単純明快だが恐ろしく手間の掛かる方法だ。
まず、俺はこの街の中で最近生まれた子猫がどれ位居るか調べた。次に瞬間移動の魔法で調べた子猫の中から健康な者を選び、左の袖に子猫を入れて再び少女の部屋に戻った。そこまでで0.01秒もかかっていないだろう。そこからはいたって簡単、袖から猫をゆっくりと出すだけだ。
流石に少女も目を丸くした。少女は、俺がさも当然の様に猫を出したもんだから口を顎が外れんばかりに開いている。
「ほらよ」
猫を差し出す。その猫もいきなり知らない場所に一瞬にして来たもんだから硬直している。
少女は差し出された猫を抱き抱えるとお礼の言葉を述べる。
「あ……ありがとう」
「礼はいらねーよ、仕事なんだから」
でも、礼を言われるのは悪くない。
少女は猫を一旦床に降ろし、立ち上がった。俺を見おろす様な形で立ち、縫い傷だらけの顔を見つめられる。
そして、少女は俺の唇に……
キスをした。
それは恋人同士がする深い口づけではなく乾いた唇を重ねただけの行為だったが俺には衝撃的な事だった。少女は俺にニッコリと微笑んだ。
「私、ニルっていうの。覚えておいてね。あとまた次の年も来てね、待ってるから」
「それはあんたが生きてる内で二度と無いだろうな」
と言おうとしたけど止めた。彼女を傷つけたくなかった。
「あぁ、約束しよう。必ずまた来年ここに来る」
ニルは満足げに微笑むとベットに潜り込んだ。
そして……
「おやすみぃ~」
寝た。俺はニルの側に寄り、片膝をつき、頬に軽くキスをした。
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