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十五年経った。
あれ以降あの街のサンタは病気になる事はなかった。昨日までは。
今回はインフルエンザだそうだ。
そしてその仕事はやはり俺に回ってきた。くそぅ、面倒だ。
あの出来事から今までニルに会う事はなかった。もしかしたら彼女に会う事ぐらい出来るかもしれない。いや、寝ている彼女の頬にキスする事も……出来るわけがない。
彼女は人間。俺はサンタクロースだ。俺は俺の道を、彼女は彼女の道を歩いていけばいい……それでいい、それでいいのだ。
そう考えながら俺は瞬間移動で隣街のすべての子供にプレゼントを配り終わり、散歩がてら暗い路地を歩いていた。その時だ。
「Hello」
なっ! 思わずグルンと振り返った。おかしい、透過の呪文は掛けていた筈なのに……
やはり声から判断して女性だ。スレンダーな体型で背が高い。ブロンドの髪を風になびかせて……ってまさか!
「ニ、ニルなのか?!」
俺は何が何だか全く判らなかった。この女はニル?
……そうだ、間違いない。こんなに綺麗な金色の髪を持つ人なんてそうそう居ない。
彼女は俺が理解したと判断したらしく、ニコニコと微笑んでいる。あぁ、笑った顔は小さい頃のままだ。
俺がぽかんとしている内にニルはぷくっと頬を膨らませて怒りだした。
「ずっと……待ってたんだよ。あれから、ずっと!」
俺は間違いを犯してしまった。その場の感情に流されて、俺は……
嘘を吐いた。
「寂しかったんだから! ずっと! 毎年期待しては裏切られて!」
泣きながら飛びついて俺の肩を揺する彼女に俺は罪悪感を感じた。
何をしてるんだ、俺は。子供に夢を与えるのが仕事なのに……一人の人生をぶっ壊して、何がサンタクロースだ! 今出来ることは彼女を優しく抱きしめる事しか出来ない。
「すまん。俺はこの街の担当じゃなかったんだ。あの年はたまたま担当のサンタが急病で……本当にごめん」
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