序章 お客様

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私は、何が起こったのかわからないんです   どうしてこうなってしまったのかもわからないんです。       私は死んだ祖母の葬式の後、家路を急いだ路地裏で、顔中に薔薇を付けた少女に出会いました……   五歳にも満たないような少女は、顔も見えないほどに薔薇にうめつくされた顔に唯一見える、真っ赤な口だけが笑っていたのです…     「くすくす………」     「…………」     なんだか不気味な子でした、こんな子供がこの世にいるのかと思ってしまうほどに……   「楽しいサーカスはいかが?」   「は……?」     いきなり唐突に言われたことに私は妙だと思いました。 今の時はもう夜の2時、もう皆寝静まり。サーカスなんて宣伝とか公開する時間帯ではないはずだ。     戸惑う私に少女は、一枚の「サーカス」という文字と逆十字と茨の絵が描かれているビラを差し出しました。     逆十字?それは神に背くものの証ではないか。 なんでサーカスにそんなマークを……?     「さあ、早くいきましょうよ」     そういうなり、ビラを持ったまま呆然とする私の腕を少女は掴んで、歩きだしたのです。     「…………?!」     私は思わずその手を振り払おうとしました。なぜなら…その手は死人のように冷たく、鉛のように固い手だったのですから…     しかし、まるで万力で固定されているように少女の手はびくともしなかったのです。     「くすくす…」   「…………っ?」   疑問と、どこから湧くのかわからない怖気に、私は逃げ出そうとなんども思ったのです。     しかし、ただ私はただ少女の手にひかれて、見たこともない道を歩いていきました。     あしもとが何か蠢き、闇しかない空間に、炎だけが列をなして照らす、そんな場所を延々と歩き続けて
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