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「谷中君、娘の彩織だ」
どうせまたお金の匂いがぷんぷんするおじさまか、と顔を上げると今まで嗅いだことのない甘い香りがした。
「初めまして、谷中慎一郎といいます」
私は一瞬で彼の優しくせつない瞳に心を奪われてしまった。
「こら、彩織、ご挨拶は・・・」
お父様の声が遠くに聞こえるくらい、私は一目で彼に堕ちてしまった
谷中さん・・・慎一郎さんは上海に越してきた青年実業家で、今日は引越しの挨拶に来たらしい。
「彩織さんは、鳥を飼っているとか」
低く優しい声でいきなり名前を呼ばれ、体がびくっと震えた。
「え、えぇ・・・20歳の誕生日にお父様がプレゼントしてくださったの」
「そうですか、それは優しいお父上だ。私も鳥は好きでね、子供の頃飼っていたんですよ」
「あぁ、谷中さん、それならよかったら見ていって下さい。この辺りではなかなか見れない熱帯地方の鳥なんですよ」
「ありがとうございます。では彩織さん、よろしいですか」
彼の視線がこちらを向く度、私の体は熱く火照っていった。
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