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――……その壁は異様に高く、内と外の空間を完全に遮断していた。
けして越えることのできない壁に、ため息が漏れる。
外に出たい。
内に入りたい。
内にいる者は外の冒険に憧れ、外にいる者は内の安全に憧れた。
だが、結局、内にいる者が外に出れば内に戻りたがり、外にいる者が内に入れば、やはり再び外に出たがるものなのである。
だからこそ、壁はあった。
人は思う。
ここではない、どこかに行きたい、と。
どこでも良い、と思いながらも、今いる場所よりも好条件でなければ満足しない。
行き着いた場所が更にひどい場所だとは想像しないものである。
どこかに行けば、きっと幸せになれる。
そう信じている。
だが、そうとも限らないから、壁があるのだ。
――壁。
それは、本当に壁かもしれない。しかし、壁ではないかもしれない。
一見、壁のようではないかもしれないし、目には見えない物かもしれない。
壁は、どこにでもある。
だが、どこにもない。
探して見つかるような物ではないが、ないと思って足を進めていると、ぶち当たるような物だ。
そのことを、誰もが知っているはずなのに、誰もが壁に気付かない……――
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