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世の中には、偉大な人物がいる。
直久にとって身近なそれは、深沢高明である。
一つ上の先輩である彼は、去年まで直久と同じバスケットボール部の部員だった。
彼にボールが渡った瞬間の緊張感。
それは同じコートにいなければ分かり得ないことかもしれない。
皆、思わず息を呑むのだ。
敵も味方も彼を目で追う。
ゴールが吸い寄せているかのようだ。
彼が放ったボールは何か別の物のように、ゴールをくぐっていく。
手品、いや、魔法のような瞬間。
音が静かに体育館に響き、空気を切り裂いた。
歓声。
そして、止めていた呼吸を思い出す。
――とにかく、二人といない凄い選手だった。
誰よりも上手で、それを傲ることがないので、誰からも信頼されていた。
もちろん、直久も彼に憧れていて、たった2年間であったが、彼と同じコートに立てたことは、直久にとって誇りであり、自慢でもある。
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