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* * *
訪れた重い静寂。
ゆっくりと七香が起き上がって、少し空気が動く。
涙の一粒も零さなかった。
床に散らばった服を着る、その姿を見つめる。
一分一秒ココには居たくない。と、その背中が言ってるみたいに見えた。
「帰る」
そう呟いた声は、小さくて震えて、
「七香」
「何?」
せやけど、呼ぶ声にゆっくりと顔をあげる。
あんな事した男を真っ直ぐと睨みつけて、ふと口許に笑みをカタチどった。
「二度と、私の前に現れないで」
そう低く呟いて、
その背中は、俺を完全に拒絶した。
部屋を出て行く音が、静寂に大きく響く。
見つめる暗闇には、何もない。
ベッドに残る、僅かな体温。
「……、」
零れた、笑い。
可笑しい事は、ない。
終わった。
コレで、終わる。
「な、な、……か」
それでも零れる笑いは、
いつの間にか、涙に代わった。
俺と七香の距離。
ソレは一定。
お互いを嫌い。
ただ、それだけで成り立っとった。
ソレに変化が訪れれば、そこでオシマイ。
愛情には変わらん気持ち。
やったら、残るんはその逆。
そして、
俺らのバランスは簡単に、
崩れる。
一定だった距離。
離れたソレは、二度と元には戻らん。
この夜。
彼女へ抱いた想いは、
恋愛感情よりもずっと深い、何か。
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