90%の拒絶と10%の懐かしさ

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  「……七香、……鈴木、さん」 「っ、」 休憩室を出ようと立ち上がった私に、詠二がそう声をかけるからフリーズ。 す、鈴木、さん!? 「き、気持ち悪い」 「は??」 「鈴木さん?って、アンタ、今まで一度も私の事を名字で呼んだ事ないじゃない!!」 「やって、今、名前呼び捨てる訳にいかんやろ」 「そーだけど。うわっ、鳥肌たった」 初対面で人を滅多切りにして、名前呼び捨ててた男に、 まさか、5年も経ってから名字を呼ばれる事になるとはっっ!! 人生って、何が起こるか解らないなぁ。 「……で、何?」 「え?あぁ。……これから、よろしくお願いします」 「あぁ、よろしく。…………沢木くん」 「っ、きっしょ!!」 ほら見ろ! 気持ち悪いだろ?私の気持ち、解ったか! 「ま、仕様がない。お互い頑張って慣れましょ」 「あ、あぁ」 言って、休憩室を出ようと、詠二の横を通った瞬間、 ふと肩が触れて、ふわりと掠めた詠二の匂いに、 身体が強張った。 「っ!!」 「……、七香?」 反射的に身体を逃がして、触れた肩を抱きしめる。 距離を作って詠二を見上げれば、その浮かべてる表情で、自分がどんな顔しているのか解った。 「ごめん。……ちょ、と、この距離は、無理かも」 「…………ごめん」 また詠二は謝って、 立っていた入口から1メートルも離れて、私に道を譲った。 傷ついた様な表情、してた。 私、きっと怯えた様な表情浮かべてた。 「やだ、手、震えてる」 消化してる筈なのに、触れた肩が、掠めた匂いが、一瞬にして記憶を蘇らせた。 自由を奪われた身体、私を見ない目、支配されていく恐怖。 暗闇の中で、ひたすら願った。 コトが終わる事を。 目を瞑って、唇噛み締めて、自分の中に好きでもない男が入ってくる嫌悪感に耐えた。 誰かの代わりですらなくて、何の意味も無い、暴力。 「っ、」  
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