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「……本気で襲うで?」
掠れた声。
そんな声でそんな言い方するクセに、詠二の指が触れたのは、私の髪。
ホント、ヘタレっ!!
「襲えるもんなら、襲ってみたら?」
「っ、」
言って目を開ければ、固まる詠二。
反射的に髪から指は離れて、石化してる。
でも、少しだけ私も固まった。
うん。
まだ、詠二を見上げるのは、怖い。
「なな、かっ!?」
「何よ?」
だから、起き上がる。
そうすれば、目線は詠二と同じになって、ソレで落ち着くから。
「っちゅうか、……は!?いつから、起きてっ」
「ブツブツ独り言言ってるからじゃない。耳につくのよね?ソレ」
最初から。とは、言わない。
試してる。なんて、言わない。
だって、今の私達の関係に、ソレは言う必要のない言葉。
「どっから起きてたん?」
「んー?試してる、から?」
「っ!」
だから、嘘を吐く。
「…………試してるつもり、ないけど?」
「や、……うん」
「面白がってるけど」
「面白がるなっ」
項垂れる詠二にケラケラと笑えば、恨めしげな眼が見上げてくる。
こういうとこ、ちょっと可愛いと思う。
「だって。口説いてこないし、そーゆー雰囲気見せないし、襲うなんて以ての外みたいだし?」
「……そー簡単にできるかっ」
「だから、様子を見てるんでしょ?」
「…………やっぱ、度数強いアルコールも、泊まってくんも、わざとか」
ひどいなぁ。
一応は、私なりの歩み寄りでもあるのに。
「嫌がらせみたいに言わないでよね」
「や、嫌がらせ以外の何モンでもないやろ?」
「何で?据え膳じゃない」
それに、こういう言い合いは結構好きなのよ?
「食うで!」
「ご自由に?」
勢いよく手を掴まれても、コレはもう怖くないの。
怖くないから、笑顔を見せる。
「お前なぁ、」
「詠二って、本当に好きなオンナにはヘタレよね?」
詠二に慣れた。
詠二の匂いに慣れた。
詠二に触れられる事に慣れた。
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