mission 0

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 いつもより30分ほど遅れて家を出た俺は、やはり30分ほど遅れて最寄り駅に着いた。  駅のホームには見慣れない顔ばかりだ。あっ、いやっ、見たことのある顔が一人いた。名前は知らないが、うちの高校の制服を着た男子生徒。どこのクラスにも一人はいそうな、女子もうらやむふくよかなバスト、シマリのないボディーラインの持ち主。実におぼえやすい。彼の額は、朝も早くから『つゆだく』である。急いで来たことは容易に想像できる。まあ、たまにはそういうこともあるさ。  その『ナイスバディー』と共に電車に揺られること約15分。いつもの駅に到着。もちろん彼も降りてきた。と同時に、うっすらと学校のチャイムらしき音が聞こえた。  おっ、駅でチャイムが聞ければ上出来、上出来。しかし、彼の心拍数および代謝率はアップ(当社比)らしい。さすがに走りはしないものの、焦っているのが手に取る様にわかる。駅からは、普通に歩いて10分ちょっとかかる。少々遅れたくらいどおってことないだろ。と、俺は思うのだが。  やや目立ち気味な先導役に導かれ俺は改札口を出た。やつの歩く速度は徐々に速まり、差をつけられてしまった。その『つゆだくだく』が駅前の交差点に差し掛かろうかという時に、歩行者信号が点滅し、まもなく赤になった。しかし、やつの脚色は衰えない。あれは渡るな。とか思っていると、向かいから右折の指示ライトを出した車が加速してきた。嫌な予感がした。やつの目にはおそらく入っていないだろう。なんとかして足を止めねば。朝から、道路の真ん中での豚の三枚おろしの実演は遠慮願いたい。とっさだった。無意識だった。俺は気がつくと、足下にあったであろうつぶれた空き缶をやつの後頭部めがけて投げていた。ブーメランの様に回転させて。
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