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夏。
それは俺にとって一番嬉しい季節でもあり楽しい季節でもある。
水を張ったタライで冷やしておいた西瓜を食す楽しみ、畑で阿呆みたいに育った野菜たちを収穫、食べる楽しみ……食うことばかりな気がしないでもないが、まぁ他にもある。
「……涼しい!」
例えば、ここ幻想郷には無いはずのクーラーで部屋を冷やしておき、外から帰ってきた時の感動とか。
そんな部屋で麦発泡酒片手にパンツ一丁で過ごす時間は至福と言わざるをえない。
その至福の時間を窓ガラスと共に派手に壊す者が一名。
「どうもー! 文々。新聞、お届けに来まし……キャー!」
「ぬわぁー! 玄関から入れバカヤロー!」
「失礼しましたー!」
壊れた窓から出て行ったのは、ここ幻想郷の新聞記者らしい天狗──射命丸 文──だ。いや、初めて会った時はただただ驚いたな。
「ごめんくださーい!」
家の下のほうから声が聞こえる。多分、射命丸だろう。
その辺に放ってた服を適当に着て
「『直れ』」
壊れた窓に命令をし、元通りにする。逆再生されるのを見届けてから、玄関へと向かう。
「あ、どうも! 文々。新聞のお届けに来ました!」
「ハイどうもー」
「人がいない時でも服はちゃんと着ましょうね。それでは!」
「やかましいわ」
ツッコみを入れる前に消えてしまった射命丸に、若干の疲労感を覚えつつ新聞を広げる。
相も変わらずどうでもいい記事が載っている。ネタに困ってんだな……と思いつつ、目を走らせていると
「ん? ほう……」
また一つ、夏を楽しめそうな記事があった。
『闇夜に浮かぶ不思議な光!?その正体とは!』
その写真には確かに、ひとだまのような尾を引く小さな光が写っていた。
「どう見ても蛍です。本当にありがとうございました……っと」
幻想郷に来て初めての夏……さて、どんな事が俺を待ち構えていることやらな。
とりあえず、いつまでも外にいると死にそうな程に暑いので、部屋に退却する。
「あー……涼しい」
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