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「ふぅ……さてと、改めて尋ねるよ」
「ハイよ」
「あんた、何しにここに来たの? そんな薄っぺらい服なんて着て……『食べてくれ』と言わんばかりじゃない」
「いやなに……ちょいとリグルに会いたくてだな」
「……はぁ!?」
お前は何を言っているんだと言わんばかりの声を、間近で言われた。顔近い近い、危ない。
俺の言い回しも悪かったのか。『も』っていうか『が』だな。うむ。
誤解を正すべく言葉を付け足す。
「会いにきたと言ってもアレだぞ? 尋ねたいことがあるって意味でだぞ?」
「へ? あぁなんだ……最初から言ってよもう……」
「……期待しちゃうじゃない」
「あんだって?」
ボソボソと何か言ってたようだが、リグルは『何も言ってない』の一点張り。埒があかないのでさっさと訊くことにする。
「今年の蛍の光ってさ、何日後ぐらいに見れる? 去年は凄かったって聞いたんだが」
「……あぁ、アレね。申し訳ないけど、今のところ分からないわ」
「そっかー……ちと残念」
いいえ、実は物凄く残念です。分かればさ、事前にいろいろと準備出来るじゃないか。
え? 今から用意しておけって?
オイオイ、面倒じゃないかそんなこと。
「んじゃ分かったら教えてくれな」
「ん、分かった。一番に教えてあげる」
「サンキューリグル、愛してる」
軽く冗談混じりにそう言うと、『何言ってんだコイツ……』みたいな顔をされた。
「ハイハイ……じゃ、気を付けて帰ってね」
「おうともよ」
ヒラヒラと手を振りながら、来た道を戻る。
帰る途中に、ふと疑問に感じたことが一つある。いやまぁ来る時にも感じていた疑問なんだけどもね。
「気配が少ない……?」
生き物であるかぎり、必ず気配というものを出しているはずである。他所では気配のことを『オーラ』とか『存在感』とか言うらしいが今はどうでもいい。
とにかく、その気配の数が少ないのだ。植物みたいな動かない気配じゃなく、妖怪などの動く気配が。
「嵐の前の静けさってやつか……分かりません」
不思議な感じを覚えつつ、俺は自宅の路へと着く。
「何も起こらないといいんだがねぇ……」
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