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「はぁ……」
あいつが帰ったのを確認して、私はその場で大きく息を吐く。さっきから心臓がうるさい程に鼓動を繰り返している。
「まったく……」
冗談でも『愛してる』なんて言わないでほしい。言われたこっちの身にもなってほしい。
私だって妖怪である前に一人のメスだ。オスにあんなこと言われてドキドキしないやつなんてあまりいないはず。
ましてや……ましてや、なんだ?
「ん? 今……あれ?」
今、私は何を考えていた?
妖怪にあるまじきことを考えていた?
まさかそんなはずはない。あるはずがない。
いつまでもこの疑問に固執していると日が暮れてしまいそうだ。
「今のことは忘れる! もっと大事な問題があるからね!」
誰に聞かせるわけでもなしに、声に出してそう言ってみる。
「集まれ……」
一声そう念じて呟けば、空から、森から、地面から、私の部下でもあり友でもある蟲たちが集まる。
しかし最近では、その数も少ない。
「やっぱり……少ない……」
今日も今日とてやはり少ない。最初は声が届いていないか反抗されているのだと思った。
でも、最近の様子を見て、どうやらそうではないらしいことは分かった。でも、どうしてかは未だに分からない。
「最近目に見えて集まりが悪くなってる。何故なのか原因が分かる子がいたら、私に教えて。もしも私に原因があるのなら言って欲しい。改善するから」
今日の集まりはこれでおしまい。
解散の声を掛けると、蟲たちは各々の生活区域へと戻っていく。
一人残された森の中、私は何をするでもなく呆然と立っている。
「……帰ろ」
愛用のマントをはためかせ、私も森の中へと戻る。
ひとりぼっちは寂しい……が、友達がいないわけではない。
妖怪や妖精の友達ならある程度いる。欲を言えば、『人間』の友達が欲しい。
それもまぁ無理な話で、人間は私の姿を見ると口を揃えて『気持ち悪い』と言う。
「高望みはするなってことだよね……」
いや、待て……そういえば例外がいた。
それは果たして誰だったか……姿がぼんやりとしか思い浮かばない。
「誰だったっけ……」
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