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夜、赤い月が空にあった。
血を、数滴たらして染めあげたような月だ。
まわりには荒れ野が広がり、蒼黒い海底のような風景に月の光がおちている。風が吹きわたり、地面からつきでた岩々をすりぬけ、もの哀しい風音をたてている。
いつもの夢だ、その思いがまどろんだ意識の中にある。
ここ数日、私は夢の中でいつも夜空を見上げながらこの場所に立っていた。絵に描いて題名をつけるとしたら、世界の終焉というのが似合いそうな風景だ。
夜空には赤い月が浮かんでいるのに、なぜかきらめく星々の姿はまったく見えない。
もしかしたら、月は夜空にある星々を食べてしまったので赤く輝いているのかもしれない。なぜならその証拠は、あんなにも月が膨らんでいるではないか…。私はそんな猟奇的な妄想にふけりながら心の中で小さく笑った。
夢の中で私は毎晩こうやって時を過ごしていた。足元の小石や枯草をみて、なにかしら意味を持たせようと夢想しているのだ。闇をかき消す朝がきて、目覚めるまでのしばらくの間。
しかし今夜は違った。
私は一人、とある場所へ行こうとしていた。それなに、自分がどこへ行こうとしているのか、なぜかしら記憶が欠落していて思い出せない。いや、まったく知らないだけなのだろうか。
両足は、そんな私の思惟に関係なく、ただひたすらに歩みつづけている。どこに行くのかは分からないが、たぶん夢の出口を求めて。
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