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少女は呼吸をしておらず、両目は静かに閉じられていた。まるで眠っているかのような涼しげな表情だ。少女の死骸。それにしてはなんなのだろう、彼女のこの雰囲気は。あの日海辺に漂っていた、空虚な肉塊と化した老人とは違う、この確かさみたいなものは。
ふいに、少女がゆっくりと目蓋を開いた。
少女の視線が私をつらぬく。
恐怖が私をおそった。
漆黒の瞳に、ゆがんだ私の顔が映っている。
彼女の頭を投げ捨てようとしたが、掌に張りついてしまったかのように動かない。
ゆっくりと少女が唇をひらき、ある言葉を綴った。
言いおえる寸前、私はすばやい動作で噛みつき、少女の口を削り取った。
いけない!
この言葉を聞いてはいけない!
そんな衝動的な思いにかられ、少女の声を封じるように食べ始めた。
少女の頭部がピンク色の肉塊になりはてても私は口を動かしつづけた。
いつしか、我知らず涙が頬を伝い、鳴咽が自分の喉からもれてきた。私は彼女の肉を喉につかえさせながら食べ続けた。その最後の一片を食べ終えるまで。
少女の姿がすべて消え去ると、私は声をおし殺し、暗い部屋の中で声なき悲鳴をあげた。
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