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今でこそ我はこの洞窟で暮らしておるが、まだ年端も行かぬ頃は智の渇望から世界中を旅しておった。
他の龍族は解らぬが、我は智を得ることで己の魔力を高めることが出来る。
若さ故か強い力を求めていたため、我は広い世界を見て回った。
旅を始めて間もなく、我は一つの噂を耳にした。
この世の全てを知り尽くした賢者の噂だ。
我は興味を抱き、その賢者が住んでいると聞いた街へ降り立った。
無論、その頃の我とて馬鹿ではない。
近くの森に降り、歩いて街に入った。
我ら龍族は人間には魔獣と同じに思えるらしい。
無用な争いを避けるために我は人化の術を使うことにした。
人化の術とは、簡単に言えば人の姿に化ける魔法のことだ。
街には城があり、森の中からでも街を囲む城壁が確認出来た。
城下街というものは城壁の出入りが厄介なものだ。
同じ人間の姿をしていても、門兵に要らぬ勘繰りを入れられなければならん。
我は賢者が城壁の外に住んでいないか、僅かな希望にすがるために森の近くにあった民家を訪ねることにした。
城から歩いて1日程の距離にあることも相まって、その民家は我の羽ばたきで吹き飛びそうな程老朽化していたが、近くには他に民家が無かったので我は力を抑えて戸を叩いた。
『もし、誰か居られんか?』
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