賢者と好奇心

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声を掛けても返事はない。しかし、我の感覚がその家には誰かが居るということを訴えていた。 そっと戸を押してみると、ギギッと歯切れの悪い音を立て内側へ開いた。 「なんじゃ、貴様は。」 戸の向こうには木製のテーブルがあり、その向こうには60を越えているであろう白髪の老人が座っていた。 『失礼。旅の者だが、少し聞きたいことがあり、お邪魔させていただいた。』 老人は鋭い眼光で我の足先から頭まで何かを探るように見回した。 我はその無言の圧力に耐えることに必死であった。情報を得るには何かを我慢することは必要だと学んでいたからだ。 「偉く丁寧な口調だが、無断で人様の家に侵入するとは、賢いのか馬鹿なのか解らねえ奴だな。」 『数々の無礼、申し訳ない。仰られる通り、まだまだ智が足りません。この辺りに智の賢者がお住まいと聞き、教授願おうと考えております。』 中々使い慣れない敬語のため、肩が凝るのは仕方なかった。今必要なのは賢者の情報だ。 老人は我の言葉にしばし呆然としていたが、纏っていた覇気を解き、笑い声をあげた。 「クックックッ、智を得ることが目的とは寂しいのう。何のために智を使うかが大事だというのに。」 この老人は何を言っているのか?我は智を得て力が増す。 つまり、智を得ることが我の最終目的なのだ。
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