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龍は閉じていた眼を薄く開き、鱗と同じ真紅の瞳を左右へと動かした。
“妙な気配がするな。”
鼻面にあたる風の向きが変わり、いつもの空間を侵食された感覚が龍に沸く。
“何者かが洞窟の中に入ってきた?”
最近では獣すらこの洞窟に足を踏み入れなくなった。
龍は自分の方へ向かってくる足音を聞き、興味を惹かれた。
“足音は一つ。人間、それも子供だな。”
“この百年、人間が此処へ訪れることなどなかったのだが……”
龍が来訪者のことで思考を巡らせていると、ドームの入口から声が響いた。
「あらぁ、真っ赤なお部屋ね。」
トコトコと歩いてくる来訪者の容姿が目に映り、龍は眼を大きく見開いた。
“少女?それもかなり幼い。”
辺りを珍しげにキョロキョロと見渡しながら、少女は龍へと近づいてくる。
「ここはあなたの部屋なの?それとも龍の部屋?」
どちらも正しいのだが、龍全体の部屋かというとあいまいになってしまう。
『我の棲み家だ。』
龍は少女が怯えないよう、声を落として答える。
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