『宝物』

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   僕は通院している病院の看護師さんに「生きるとは何だと思いますか?」そう質問した事がある。その看護師さんは長らく救命センターに配属していた方で、人の死というものをまじかで見てきた人だ。その方から出た答えは、「人生は味わいだと思うな。」だった。その答えを聞いた時は、良く意味が分からなかったが、次第に分かってきた様な気がしている。人が生きていれば、様々な感情と出会う。嬉しさであったり喜びであったりする。しかし感情の多くは苦しみであり、迷いだと思う。そこで嬉しさや喜びを味わうのは当たり前だが、苦しみや迷いも味わう事が大事なのではないか。甘さもにがさもじっくりじっくり味わっていくのが、人生を豊かにしていくのではないかと、最近になって思える様になってきた。また自分の人生を振り返ると、楽しかった思い出より、辛かった思い出の方がフラッシュバックされる。そう考えると何年か後に笑い話となるのは、楽しい思い出より、苦労話なのではないか。そうなると苦労は悪い思い出ではなく、最高の良き思い出なのかもしれない。僕は個人的に大人になって昔を振り返った時に、思い出す様な話が無い大人にはなりたくない。だから今までの苦労やこれからの苦労は宝物になっていくのだと思う。その病院の先生が前に「悩むのも悪くないよ。」と言った事がある。その時は冷たい感じもしたが、今思うと、「宝物を増やしなさい。」と言っていたのだと、心から思える。だからみんなも宝物をどんどん増やしていってもらいたい。痛みは伴うが苦無くして宝物は得られないのではないか。
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