第二章‐戦いの幕開け‐

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「父上、敵は退却した模様でございます。」 「うむ。皆の者、大儀である。追って沙汰するゆえ、待機せよ。」 上田城で碁を打っていた昌幸は、戦勝の報を聞いて一瞬動きを止めたが、待機の指示を出した後、また碁を打ち始めた。 無表情ではあるが、心の中では大笑いしていただろう。 「――ふふふ……。まだ終わりでは無いぞ……。」 一人呟いた。 しばらくして、昌幸の碁も終盤に差し掛かった頃、昌幸の居る部屋の障子がすすっと開き、忍びの者が入って来る。 忍びといっても、映画や漫画等の世界とは違い、町人の姿に変装した忍びである。 こちらの方が怪しまれにくいのだ。 「申し上げます。 徳川家の軍勢は和田峠を避け、大門峠を通って美濃へ向かう模様!」 その瞬間、昌幸が勢い良く爽快な音を立てながら碁石を台に叩き付けた。碁は昌幸が完全に勝利していた。 昌幸は不敵な笑みを浮かべながら、立ち上がった。 「出陣いたす!皆の者に伝えよ!」 それもそのはず、秀忠が通る大門峠は、山道が多く道も荒い。つまりは進軍しにくいのだ。 一方、秀忠が避けた和田峠は道もやや平坦で、道も広い峠で、武田信玄も利用していた進軍路であった。
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