表裏比興者‐真田 昌幸‐

第二章‐戦いの幕開け‐

「と、とにかく防備を固めよ！それと各陣に援護せよとの使者を送るのじゃ！」

「は、ははっ。」

何とか立て直そうと躍起になる家康だったが、真田家が待ってくれるはずも無く、麓に布陣していた旗本衆と戦闘を開始していた。
不意を突かれた徳川家と、士気旺盛で死をも厭わない真田家の兵士では、戦の結果は火を見るよりも明らかであった。

次々に討ち取られていく徳川兵に、じわじわと山を登っていく真田兵。
徳川家の戦線は徐々に後退していた。

「真田家が動いたか。よし、兼ねてからの約束通り、我らも徳川家へ突撃を開始する。」

そう言ったのは、毛利家一門で強大な権力を持つ吉川広家であった。
史実では徳川に内応していた広家だが、二日前に届いた昌幸の書状通りに真田家が到着するまで待機、来た場合は共に家康を挟撃するという指示にしたがったのだ。
もちろん、この策を受け入れたのは、他でもない真田昌幸からのものだったためであり、徳川を破った事のあるその才能を信じたからこそのものである。