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「殿!山の南方からは毛利の軍勢が我が先陣に攻撃を開始致しました!さらに吉川の軍勢は我が陣に迫っております!
さらに小早川隊も我が軍の形勢不利と見て、福島隊に横槍を入れました!」
「ちっ!これも真田の策か!一豊、輝政はいかがしておるのじゃ!」
激しくいきり立つ家康は、軍配団扇を大地に叩き付け、爪をがじがじと噛み始めた。力が余り、指には鮮血が染みはじめる。
忍はそれを見てはっとなるが、主君を諫める事などできず、見逃した。そしてこう言った。
「――“思い返せば、太閤殿下からの恩義が忘れられぬ”との、仰せでございます……!」
「どれもこれも全て、真田の策略よ!いまいましい小倅めが!
全軍、真田家の戦線を突破し江戸へ戻るのじゃ!」
家康は必死に命令を出す。だが氾濫した川の濁流のように、戦場は混乱し繁雑し、勝手に逃走しているために全くもって収拾がつかない。
家康は、もはや朱に染まった指を口から離し、今度は目に涙を浮かべながら、仁王の如く歯を一文字に食いしばった。
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