眠れぬ夜も君と過ごせば

5/10
12336人が本棚に入れています
本棚に追加
/600ページ
「見たけど?なんなんだよ」 視線を元に戻した史誓はまだ不満そうな表情だった。 「えっ?ちゃんと敬誓の顔見たの?」 史誓の後方、少し離れた位置には、敬誓が立っていたのだ。 「見た。お前…、なにが心配いらないだよ。あいつ ものすごい顔して俺の事睨んでじゃねーか!」 史誓は口を尖らせ、眉間にシワを寄せた。 「ぷっ!くくくくっ!」 その顔を見た陽菜は体を小刻みに揺らし笑い出す。 「何笑ってんだよ」 「いや、だってあまりにもそっくりで可愛いから」 「はぁ?」 史誓は意味がわからないと言いたげな顔だった。 「史誓。あれは睨んでるんじゃないのよ!」 「あ?」 「あの顔はちょっと言い過ぎたかもって心配になってる顔。史誓が本気で怒ってないか不安そうに様子を窺ってるのよ」 「は?あれでか?」 「ふふっ、今の史誓の顔にそっくりじゃない!」 「なんでだよ」 「敬誓ったら史誓に似て素直になれないんだから」 実は、史誓が仕事で遅くなる日や、遠方で帰って来れない時は敬誓はとにかく落ち着かなかった。 何度も何度も陽菜の所を訪れては、史誓が、いつ、何時に帰ってくるのかとしつこいくらいに聞いてくるのだった。 毎回、まだか、まだかと首を長くして史誓の帰りを待っていた。 それにパパと呼ばないのには理由があった。 もちろん父親と思ってないからではなく、呼び捨てにする事で史誓が必要以上に敬誓に構うため、それが嬉しかったようだ。 敬誓は史誓にかまってほしくて、遊んで欲しくてしかたがなかったのだ。 可愛いでしょ? 陽菜がそう耳元で小声で囁くと、史誓はわざとらしく、「ケッ!」と言ってそっぽを向いた。 けれどその顔はひどく嬉しそうで、陽菜はやっぱり素直じゃない所が、二人そっくりだと思わずにはいられなかった。
/600ページ

最初のコメントを投稿しよう!