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「見たけど?なんなんだよ」
視線を元に戻した史誓はまだ不満そうな表情だった。
「えっ?ちゃんと敬誓の顔見たの?」
史誓の後方、少し離れた位置には、敬誓が立っていたのだ。
「見た。お前…、なにが心配いらないだよ。あいつ ものすごい顔して俺の事睨んでじゃねーか!」
史誓は口を尖らせ、眉間にシワを寄せた。
「ぷっ!くくくくっ!」
その顔を見た陽菜は体を小刻みに揺らし笑い出す。
「何笑ってんだよ」
「いや、だってあまりにもそっくりで可愛いから」
「はぁ?」
史誓は意味がわからないと言いたげな顔だった。
「史誓。あれは睨んでるんじゃないのよ!」
「あ?」
「あの顔はちょっと言い過ぎたかもって心配になってる顔。史誓が本気で怒ってないか不安そうに様子を窺ってるのよ」
「は?あれでか?」
「ふふっ、今の史誓の顔にそっくりじゃない!」
「なんでだよ」
「敬誓ったら史誓に似て素直になれないんだから」
実は、史誓が仕事で遅くなる日や、遠方で帰って来れない時は敬誓はとにかく落ち着かなかった。
何度も何度も陽菜の所を訪れては、史誓が、いつ、何時に帰ってくるのかとしつこいくらいに聞いてくるのだった。
毎回、まだか、まだかと首を長くして史誓の帰りを待っていた。
それにパパと呼ばないのには理由があった。
もちろん父親と思ってないからではなく、呼び捨てにする事で史誓が必要以上に敬誓に構うため、それが嬉しかったようだ。
敬誓は史誓にかまってほしくて、遊んで欲しくてしかたがなかったのだ。
可愛いでしょ?
陽菜がそう耳元で小声で囁くと、史誓はわざとらしく、「ケッ!」と言ってそっぽを向いた。
けれどその顔はひどく嬉しそうで、陽菜はやっぱり素直じゃない所が、二人そっくりだと思わずにはいられなかった。
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