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霊峰ラーミナの外れにある荒野。
乾いた空気が地面の砂埃を巻き上げる。照り付ける太陽を背に立つ青年は、不機嫌な顔で剣を地面に突き立てた。
『…来いよ、まとめて相手してやる』
青年の周りに所狭しとひしめき合っている悪魔。ザッと数えて百体以上のスケアクロウが取り囲んでいた。
ケケケケッ!
色とりどりの布のつぎはぎで出来た体を左右に揺らしながら甲高い奇声を発するスケアクロウ達。
だが襲い掛かる様子はない。
何故なら青年から放たれる気が余りにも威圧的でまがまがしいものだからだ。
青年自身も己の身体の不調に気付いているらしく、目を閉じると倒れないよう剣を握りしめながらその場にうずくまった。
『チッ!何でこんな時に…眠たく…』
青年の瞳がみるみる赤く染まり、とうとう倒れ込んでしまった。
ドサッ
遠巻きにその様子を眺めていたスケアクロウ達は何事もなかったかの様に散り散りと姿を消し、広大な荒野には地面に突き立てられた剣と、その傍らで眠る青年だけが残っていた。
何処からともなくヒラヒラと現れた真っ黒な揚羽蝶が、青年の銀髪にとまる。
「貴方の名は?」
『ネロ…』
そう囁いた青年の小さな声は、風に掻き消されて行く、そして揚羽蝶は近づいて来た人影から逃れる様にヒラヒラと飛び立った。
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