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ネロは立ち上がり、フォーナに背を向けた。
あの雨の日…
フォルトゥナでキリエに出逢ったあの日、全てを捨てようと心に誓った。最愛の母は胸の奥深くに閉じ込め思い出す事のないようにと。
雨に打たれ、軋む馬車に揺られ、死んだ目をした大人達に混じり、寒さに震えていたあの幼かった日に。
「どうして…今更、思い出しても苦しいだけなのに」
俯き震えるネロ。
フォーナはそっと近付きネロを抱きしめた。
優しく髪を撫でる。
「何故、目を逸らすの?過去から、自分自身から」
「…」
「貴方が夢を見るのはね、その心の不安がリンクに通じてしまうからよ。契約者が賢者の石を求める時、リンクは犠牲者を求めるから…犠牲者たる条件は彼の者が契約者にとって唯一無二である事」
耳元で囁かれる声が心地よく、不安が薄れて行く。何処からか香の甘い薫りが漂って来てネロはまた眠りに落ちて行くのだった。
「ダンテ…」
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