134人が本棚に入れています
本棚に追加
灰皿の縁に置かれた煙草のフィルターには紅いグロスが残って、何だか血みたいに見える。
流れたばかりの透明な紅い血液みたいに。
私が紫煙を立ち上らせるそれから目を離せないでいると、彼女はうっとりした目で呟いた。
「どうして香りの記憶って消えないんですかね?」
「え?」
「顔は思い出せなくても、匂いは覚えてるんです…私だけですかね?」
「あー…、ううん。分かる気はするよ」
「彼がヘビースモーカーなので…、彼の煙草だけ匂いで分かるんです」
そして彼女はグロスの付いた煙草を再び手にして話し始めた。
愛しそうに指で転がしながら…。
私は煙草を灰皿に押し付け、とっくに湯気を失ってしまったコーヒーを飲んだ。
最初のコメントを投稿しよう!