煙草の香り

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灰皿の縁に置かれた煙草のフィルターには紅いグロスが残って、何だか血みたいに見える。 流れたばかりの透明な紅い血液みたいに。 私が紫煙を立ち上らせるそれから目を離せないでいると、彼女はうっとりした目で呟いた。 「どうして香りの記憶って消えないんですかね?」 「え?」 「顔は思い出せなくても、匂いは覚えてるんです…私だけですかね?」 「あー…、ううん。分かる気はするよ」 「彼がヘビースモーカーなので…、彼の煙草だけ匂いで分かるんです」 そして彼女はグロスの付いた煙草を再び手にして話し始めた。 愛しそうに指で転がしながら…。 私は煙草を灰皿に押し付け、とっくに湯気を失ってしまったコーヒーを飲んだ。
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