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それは殺されたバグの死体を見つけた時の様な悲しげな表情だった。
思わず護ってあげたくなるような弱弱しさを見せる彼女の姿に、不気味さを感じた魔王は一歩だけその場を下がる。
自衛手段の腕は既に仕舞ってしまったのだ。別に負ける、とかそんな気は欠片ほどもないが念の為だろう。
何せ彼は串刺しにされたくらいでは問題は無い。
「カタームって国に送っておいたバグが凄い勢いで数を減らしてるんだよねぇ。人間の皮を被って置く様に言ったのに……全くどうなってるんだか」
「なるほど……あの国か」
「あぁ、魔王様的には因縁の国だっけ?」
否定も肯定もしない事を答えとして受け取ったドゥルジは、にんまりと笑みを作って魔王に近寄る。
そして正面から抱きついて豊満な身体を惜しげもなく彼に押しつけながら、耳元で語る。
「ね、もしよければ行ってみない?制覇とか抜きで、遊びにさ」
「……良いね、乗った」
夏の太陽は大地に現れた血だまりを照らす。
人も家も、何もかもが壊された国であった場所には既に一つたりとも人影はなった。
語られていた言葉も赤い血だまりも、日が沈むにつれ闇に溶けて行く。
災悪は動きだした。
子供の様に我がままに。
大人以上の力を持って。
魔王は動く。
悪魔も動く。
小さな金色の子鬼の住まうカタームへと。
風に乗って言葉が廻る。誰とも分からぬ言葉が廻る。
地獄よりも暗い闇。
そこに住まいし神々の失敗作。
神に刃向かった愚かな反逆者、創造主に捨てられた神の傑作、天地創造と共に生まれた究極の悪魔。
彼ら奈落へと封じられ、永劫の地獄を体験す。
奈落への道を作ることなかれ。
失敗作は解き放たれ、神へと牙をむくだろう。
さすらば誰も助からん。
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