ただ風に願う

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 そっと、風にのって純白に輝く綺麗な白い花とこの祈りを届けたい。きっと星が降って空の彼方にはまた新しい命が生まれる。  暗い海を漂う少年の心。波がそっと唄った子守唄は街を眠らせた。南の島からは風に運ばれてかすかに流れる鎮魂歌が聞こえる。夢も想い出も願いさえも、全て呑み込まれていく。  そっと風にのって白い花と祈りを届けたい。目眩がする程、青く澄んだあの空……。哀しい色した雲がただ風に流れて、溶けた時間は過ぎてゆく、ほら砂の様に……。  いつか眠りについたこの街にまた子供達の無邪気な笑顔が戻ったとしても、あの子はもう還らない。  そっと夜を待って、一人になって父は静かに泣く。寄せて返す波の音ただ悲しく去っていく。涙は散って母は海へ身を投げた。もう還らないあの子を追いかけて……。  茜色の空はただ雲を流してしまうだけ、他には何もしてくれない。  ずっと夢に眠り、夢に生きる。幾つもの灯火達。誰もいない海は目を閉じ安らかに眠る。  鳥は唄い、緑が咲き誇る時代が流れたとしても、十二月の空を忘れはしない。  もっと風を下さい。強い風を、強くそう願った。あの子の魂が高く昇れる様に、と。  風にのって白い花と祈りを届けたい。目眩がする程青すぎたあの空はもう見られない。  世界中のこの祈りがいつか必ず届きます様にただ願い続ける。
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