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オカキに何を言われても、私の恋はすでに走り出していて、止めようがなかった。
スナックでも大将は人気者だった。すぐにお店の人や常連さんに溶け込んだ。
大将はほぼ毎日スナックに顔を出した。
私が紹介した店に彼女が毎日通っているということが嬉しかった。
私は、スナックのカウンターでグラスを傾け、ワイルド・ターキーのボトルをニヤニヤと見つめた。
それは、大将と初めてこの店に来た時、「誕生日プレゼント」って下ろしてくれたものだ。私の誕生日は4月だったからすでに1月過ぎていたが「まぁいいやん」って笑っていた大将。
私は何かとウジウジ悩むタチだから、大将の気っ風のよさとあっけらかんとした明るさがまぶしく見えた。
「なぁ、ユカリちゃん。7月にある花火大会、行ったことあるか?」
私は花火を見たことがなかった。小さく首を左右に振る。
「じゃ、一緒に行こか」
大将に目をやると白い歯を見せてニコッと微笑んでくれた。
「……はい、行きたいです」
迷わずそう答えていた。
「残念ながらふたりきりとちゃうで。うちのおかんと、妹親子も一緒やからな」
ドキッ。
私は何を考えてるんだ。大将が冗談で言った言葉に一瞬、動揺してしまった。
「はい!大勢のほうが楽しいですよね」
動揺した心を見透かされそうで、慌ててそう答えた。
大将は笑ってグラスを傾けた。ふたりきりじゃないけど、あこがれの大将と飲み以外で会うのは初めてのこと。
私は大事な使命も忘れて、ワクワクと心躍らせていた。
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