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アヤカは推測した。
おそらく自分に呆れたから、彼は微妙な顔をしているのだろう、と。
アヤカは自他共に認めているが、時たま自分の世界に入り込んでしまうことがある。
下っ端ならば、これに慣れなければならないのが、彼女の下で働くということだ。
制服と称して彼が差し出してきたのは、彼女達が働く西方管理整備局、通称“西警”の局員制服。
紺をベースとしたそれは真ん中に黄色のラインが入り、左胸には局章がついている。
W、Sと。
アヤカはこういう美術のように、第六感を働かせなければ真価の見えてこないなんていうものは苦手である。
ただ、蛇がのたくっているように見えていた。
そんな制服を着ていた白のワイシャツの上から羽織る。
もう少し先生スタイルを貫きたかった彼女だが、仕事となれば、いたしかたない。
本職もまっとうしないと、クビになるのは目に見えている。
「で、なんでしたっけ?」
制服のファスナーを1番上まで上げて、アヤカは口を開いた。
勿論、歩きながらである。
(上司にこんなぶざまな真似をさせるとは……。
あとで覚えておきなさいよぉ)
という憎しみの念を抱きながら。
そんなことは露知らず、カインはやっと仕事モードに入ったと見える上司に安心しながら、答えた。
「あ、はい。僕も詳しくはしらないんですが、なんでも遭難者だそうッス。
東の海岸に打ち上げられてたみたいです」
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