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「怪盗アゲハが現れた」
姉貴の口から紡ぎ出された台詞は、一瞬で俺を過去の闇へと突き落とした。
……奴が再び復活するなんて、全く予想していなかった。
俺達には感情を抑えることが出来ないほど影響力がある“怪盗アゲハ”。
「ハハッ。……なんで?なんで復活するのかなぁ?」
パニックなのか、頭がクラクラする。視界が渦巻いて見える。
「俺、人の死に怯える奴かと思ってた。奴が少しでも後悔しているのかと信じてた。……なのに!」
「葵!」
我を忘れて暴れる俺を、姉貴が無理やり抱き締めた。
「放せ!お姉ちゃん!!」
必死で身体を動かしても、自身が冷静でない中、柔道有段者に後ろをとられてはビクともしない。
「アンタは独りじゃない!わたしが居る。あの時、2人で誓ったこと、覚えてる!?」
「あの、時……?」
暴れていた身体がロボットのようにピタリと動かなくなり、変わりに涙が溢れた。
そんな俺を見て、姉貴は優しく微笑み、更に強く抱き締めた。
いつもなら強すぎる力が、妙に心地よい。
「そう。心の痛みは兄弟で分け与える。怪盗アゲハは……2人で」
悪魔の囁きを引き継ぎ、俺は吐き出すかのように言う。
「地獄の奈落へと突き落とす」
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