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「葵。この依頼、よろしく」
俺が事務所に入ったと同時に、社長が声を掛けた。
社長は“叔父さん”という言葉が似合わないくらいダンディーな男前だ。
……見た目は、だけど。
四十歳を過ぎていても、髭が生えていても、趣味の釣りのし過ぎで色黒でも、全て“カッコいい”で許される。
だが、実際はかなりの天然で、気まぐれ。また、他人になりふり構わず我が道を突き進むような人だ。
何度、俺達がプライベートで迷惑したか。
仕事はバリバリこなすが、それ以外は酷い。
休みの日は、のほほんと趣味の釣りを1日一睡もせずに船に乗って行うのは日常茶飯事である。
前に一度付き合わされたが、最後に俺の意識はなく、いつの間にか自分の家にいた。
あー、思い出すだけで船酔いしそう。この話は終わり!
事務所はバイトの俺を入れると、4人だけ。大人数ではないが、その分チームワークが完璧で仕事が早い。
今は他の社員は出払っていて、社長と俺の二人きりだ。
渡されたメモには、僅かな用件だけ。情報が明らかに少なすぎる。
またいつものことかと思い、社長に尋ねる。
「“追跡調査”ですか?しかも、女子高生」
「そう。ストーカー被害に合っているんだ」
「でも、女子高生が探偵事務所に依頼するなんて、金が」
「あ。それ、電話のメモだった」
……やっぱり。
プライベートでドジを踏むのは構わないが、仕事では止めてほしい。
悪い悪いと苦笑しながら、社長は本物の依頼書類を渡してくれた。
これはさすがに本物だ。
メモ用紙より明らかに大きい紙に、用件や依頼人の名前など、個人情報がびっしり書かれている。
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