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「さて。もう、死にたいなんて思っていないようですね。私はこれで失礼します」
男は、道路に転がっていたこうもり傘を拾い上げると、くるり、と私に背を向けた。
「あなたは……」
私は、かすれる声を絞り出した。男が、首だけを軽くこちらに向ける。
「死神、ですよ」
そう言って、皮肉げに彼は笑った。そのまま、ひょいひょいと飛ぶような足取りで、人ごみの中に消えていく。
気がつけば、雨はいつの間にか上がっていた。再び顔を出し始めた太陽の光が、凍える街を暖めていく。
私は静かに立ち上がり、歩き出した。彼の去ったのとは逆の方向へ。
生きる意味を、見つけるために。
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