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「なぜですか?」
男の言葉は、唐突だった。私は一瞬、彼が何を言っているのか理解できず、問い返す瞳で彼を見つめた。
「なぜ、死にたいのです?」
彼は、できの悪い生徒に教える教師のように、ことさらにゆっくりと私に問いかけた。
なぜ、死にたいのか。
改めて聞かれると、言葉にするのは難しい。
あえて言うなら、生きる意味を見出せずにいるから、ということになるだろうか。
この世界の中で、私が私として生きている意味はひとつもない。もし今この場で、私がこの世から消え去っても、世界は表情ひとつ変えることなく、いつもどおりに回り続けるだろう。
それが、なんだかとても虚しかったのだ。
「世界の中で、自分の生きる意味を見出せないから、だから死にたいと?」
男が小馬鹿にしたような口調で言う。その口調は私の心をひどく苛立たせた。いや、そんなことよりなぜこの男は私が心に思ったことを言い当てることができたんだ? 私は、警戒心もあらわに燕尾服の男を睨みつけた。
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