Death in the Rain

6/8
前へ
/8ページ
次へ
「どんな不幸を背負っているのかと思えば、とんでもないお子様ですねぇ」  私の視線など気付かぬげに、燕尾服の男が唇の端を歪めて見せた。言葉は相変わらず丁寧だが、その内容は毒に満ちている。私はさらに表情を険しくして、軽薄そうな笑みを浮かべる男の顔を睨んだ。 「ええ、あなたの言うとおりですとも。あなたごときが、この世で生きる意味など何もございませんよ。そりゃあそうでしょうよ、あなたのような小娘が、生きる意味などという大層なもの、持っているはずがないじゃありませんか」  あんまりな男の言葉に、私はかっとなって右手を振り上げた。  ぱしっという渇いた音。  私が振り上げた手は、男に掴まれていた。私の手を掴むときに手を離したこうもり傘が、ゆっくりと地面に落ちる。激しい雨が、男の燕尾服を、その美しい顔を、濡らしていく。 「おやおや、怒ったのですか? なぜです? 自分が世界に必要ない存在だと、認めるのが嫌だからですか?」  私の手首を掴んだまま、男がその真っ暗な瞳で私を見つめる。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加