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「あなたはその事実に抗おうとしている。ならばなぜ命を絶とうとするのです?」
打って変わったように優しい声で、男は私の耳元にささやいた。
「あなたもわかっているのでしょう? 世界にとって、自分の価値がなかろうとも、それでも人は生きていく。世界があるから人がいるのではありません。人がいるから世界があるのです」
男の言葉は、極上の美酒のように甘く、私の心を捕らえて離さなかった。
「生きる意味など、自分で見つけるものですよ」
その言葉が、とどめだった。
私は、気が抜けたように、アスファルトの道路に膝をついた。途端に、熱い涙があふれ出してきた。涙は冷たい雨に流されて、すぐに消えていったが、その温もりは頬に残って消えなかった。
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