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自分で意識しているのかどうか。彼女の右手がゆっくりと動き、自らの左手首につけた革製の腕輪に触れる。
そして彼女は愛おしそうに、それを優しく撫でた。まるでそこにあるはずの、誰かのぬくもりを確かめるかのように。
「もう、一年になるんだね……」
三たび、言葉が零れた。
少女の視線は、そこにはいない誰かに向けられている。
「ねぇ、リョウ、覚えてる? この腕輪を買った日のこと。去年のクリスマス」
見えない誰かに向かって語りかける少女の顔は、ひどくいとおしげで、ひどく、哀しげだった。
「来年のクリスマスには何を買おうかって、二人で色々話し合ったよね」
少女はなおも語りかける。永遠に返らないとわかっている返事を、期待するように。
「ねぇ、リョウ! ……今日は、クリスマスだよ……」
最後の言葉はため息のように消えゆき、少女はがっくりとうなだれる。
あの日以来、何度も繰り返した行為。彼女に答えるのはいつも決まって、非情な静寂だけだった。
激しい虚無感に襲われた少女は、ゆっくりとまぶたを閉じた。少女の意識が、周囲の闇に溶けて拡散していく。
このまま、あたしの存在も、溶けてしまえばいいのに。
心の中でそう呟いた少女の意識も、だんだんと遠のいて行き――。
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