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えっへんと胸を張って、ミカエルは名乗った。しかしそれは、真理の疑いの視線を強めただけであった。
「ミカエルぅ? 何よそのふざけた名前!」
「ふざけた名前って何だよ!」
自分の名前をけなされて、ミカエルは口を尖らせた。しかし真理はミカエルのそんな様子など、目には入っていない。
「だいたいあんた、どっから入ってきたのよ! ここはあたしの部屋よ!」
「どこからって、そこから」
ミカエルは悪びれるふうもなく、部屋の窓を指差した。確かに、部屋のガラス窓はいつの間にか開け放たれている。
あまりにあっけらかんと言うミカエルに、真理はしばらく口をぱくぱくさせていたが、我に返ったように顔を真っ赤にして、ミカエルにびしっと指を突きつけた。
「わかった! あんた泥棒ね! さっさと出ていかないと警察呼ぶわよ!」
「いやぁ、そうしたいのはやまやまなんだけどさぁ。こっちも仕事なんだよね。何もしないで帰ったりしたらなんて言われるか……」
ミカエルは、あくまで穏やかな表情、穏やかな口調で延々と説教をするラファエルの姿を思い浮かべてため息をついた。
真理は勿論、そんなミカエルの心中など知るわけもなく、ミカエルの言葉を聞いて眉間の縦じわをさらに深くする。
「仕事って……ははぁ、お金を盗もうって魂胆ね! そうはさせないわ!!」
白いセーターの袖を肩までまくり上げて、ミカエルを睨みつける。
真理のただならぬ雰囲気に、ミカエルはあわてて両手を顔の高さに上げて、「お手上げ」のポーズをした。
「あ、いや、あの、そうじゃなくて……」
「じゃあ、なんなのよ!」
真理がミカエルに迫る。
「えっと、オレは……」
ミカエルはそこで、ひとつ息を吸い込んだ。姿勢を正し、表情を引き締める。
「オレは、君を救いに来た」
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