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昼下がりの、教会の中庭。
石造りの天使像を配した小さな噴水の傍らに木のベンチが置かれている。
午前の授業を終えたラファエルは、そこに腰掛けてひとときの読書を楽しんでいた。噴水を流れる水の音と、木々の葉が風に吹かれてそよそよとなる音が心地よい穏やかな午後。
「はぁ~あ」
その穏やかな空間に似つかわしくない盛大なため息に、ラファエルはページをめくる手を止めて顔を上げた。
「どうしたんですか、ミカエル。ため息なんてついて」
見れば、隣のベンチに座ったミカエルが、噴水を見つめて浮かない顔をしている。
「あ、ラファエル先生……」
声をかけたラファエルに気づいて返したミカエルの声にも、いつもの元気がなかった。
「仕事に向かったのではなかったのですか?」
ラファエルは読みかけの本にしおりを挟むと、パタンと閉じた。そしてミカエルの方に向き直り、うつむいた彼の顔を覗き込んだ。生徒の仕事の悩みの相談に乗るのも、先生の大切な役目だ。
「行ったは行ったんですけど……」
「追い返されたんですか」
「……はい」
がっくりとうなだれるミカエル。そんな彼に、ラファエルは優しく微笑みかけた。
「一度で成功しようというのは、難しい話です。一度追い返されたくらいで、あきらめてはいけませんよ」
しかしその言葉も、ミカエルの浮かない顔を明るくさせることはなかった。
「わかってはいるんですけど……」
少しだけ顔を上げ、ラファエルにそう言うと、ため息をついてまたすぐにうつむいてしまう。
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