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誰かの気配を感じて、真理は身を起こした。
意識がはっきりとしない。どうやら、泣き疲れて眠ってしまっていたらしい。
重い目蓋を、どうにか持ち上げてみる。目を開いては見たものの、あたりはやはり闇の中。
自分が本当に目を開いているのかどうかさえ、よくわからなくなってくる。
そんな濃厚な、闇。
「何かお悩みのようですね、お嬢さん」
不意に、闇が声を発した。地の底から響くような、低く張りのある声。
喋ったのは、闇の中に溶け込んだ、闇色のスーツをまとった人影だった。
真理はバッと身を固くする。
「誰っ?」
闇の中を見据えるように目を凝らす。闇の中のその人影は、笑ったようだった。
「おや、驚かせてしまったようですね。これは失礼いたしました」
人影は、芝居がかった動作で一礼する。
「申し遅れました。わたくし、こういうものです。以後お見知りおきを」
スーツの胸ポケットから一枚の名刺を取り出し、真理に向かって恭しく差し出す。白い紙の名刺は、闇の中でやけに明るく、光って見えた。
優雅な、しかし有無を言わせぬ雰囲気をまとった彼の言動に、真理は思わず名刺を受け取っていた。そのまま、ほとんど反射的に受け取った名刺に視線を落とす。
「メモリアル、コンサルタント……?」
「いかにも。メモリアル・コンサルタント、すなわち『記憶相談員』のクロサキでございます」
そう言って、スーツの人影――クロサキは、再び一礼した。そして身をかがめ、座り込んでいる真理の瞳を覗き込んだ。
「お嬢さん、あなたは悲しい記憶をお持ちのようだ。……最近、大切な方を亡くされた、とか?」
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