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頭の中に直接響いてくるようなクロサキの言葉に、真理はハッと身を強張らせた。射抜くような視線でクロサキの瞳を見つめ返す。
クロサキはそんな真理の視線を意に介した様子もなく、大袈裟に哀しげな表情を作って見せた。
「……やはりそうなのですね。あなたの瞳の奥には、深い悲しみが宿っていらっしゃいます。たとえ顔は笑っていても、その悲しみの光は決して消えることはない」
そう言って肩をすくめてみせるクロサキ。真理は彼から目をそらし、うつむいて唇を噛む。
「ですが、このわたくし、その深い深い悲しみを消すことができます」
幼い子供に言い聞かせるように、甘く優しい声でクロサキは言った。弾かれたように、真理がその顔を上げてクロサキを見つめる。
クロサキはそれを確認して、満足そうに唇の端を上げた。そして真理の瞳をじっと見つめ、さらに優しい声を出す。
「あなたの悲しみの記憶を、消すのです」
「……記憶、を?」
絞り出すように声を上げた真理に、クロサキはゆっくりとうなずいた。
「ええ。悲しい記憶を消し、そんなことははじめから存在しなかったことにしてしまえばよいのです。そうすればあなたは悲しみから解放されます」
「……はじめから、存在しなかったことにしてしまう……」
「どうです? あなたも悲しみから解放されたいと願っているんでしょう?」
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