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 うららかな昼下がり。  太陽の光はやさしく世界を照らし、青々とした葉の上の水滴がそれを受けてきらきらと輝く。  程よく暖かく穏やかな気候を喜ぶかのように、小鳥たちが軽やかに歌っている。 「……ということになります、だから、地上で肉体を失った人々の魂が空へと上がり……」  どこからか、人の声が聞こえた。  おそらく男性のものだろう。穏やかさの中に凛とした力強さを秘めた、そんな感覚を抱かせるような声。  誰かに語りかけているのだろうか、声は途切れることなく言葉を紡ぎ続ける。 「……つまりは、人の記憶というものが、魂をわれわれの姿に形づくっているとも言うべきで……」  声は、小鳥たちが歌う木々の傍らにある、古い建物の中から聞こえてきていた。  古い、しかししっかりとした石造りのその建物は、森の中に静かにそびえる教会であった。  教会の一室、窓から心地よい陽光が差し込む部屋に、声の主は立っていた。  学校の教室を思わせる部屋の端に置かれた教壇の上に立ち、黒い革張りの分厚い本を片手に、穏やかな表情で言葉を紡いでいる。  声の主は黒い僧衣に身を包んだ背の高い男性だった。おそらく二十代後半くらいだろうか。その顔立ちは整っていて、美しいと表現できるだろう。そしてそれは、計算された芸術としての冷たい美しさではなく、暖かな体温を帯びた美しさだ。端正な白い顔の中で、ひときわ特徴的な緑色の瞳が、静かな色をたたえている。
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