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僧衣の男性――ミカエルの上司であり先生でもあるラファエルも、ミカエルが素直に謝ればそれ以上怒るつもりはなかったらしい。くるりとミカエルに背を向けて、元通り何事もなかったかのように教壇に上がる。
その時、がらんがらん、と荘厳な鐘の音が響いてきた。授業の終わりを告げる教会の鐘の音だ。
「今日の授業はこれでおしまいです」
ラファエルはそう言って、手にしていた分厚い本――“Holy Bible”と書かれている――をパタン、と閉じた。
そしてミカエルのよく動く黒い瞳を覗き込むようにして、こう付け加える。
「ミカエル。明日に備えて、今日は早く寝るのですよ」
ミカエルはというと、そんなラファエルの言葉が聞こえているのかいないのか、慌しく勉強道具を白い革の鞄の中に詰め込んでいた。
そして詰め終わるや否や、ガタッ、と大きな音を立てて椅子から立ち上がる。
「よっしゃ! 授業終わりっ! 早く家に帰って『ファイナルクエスト5』の続きやろうっと!」
そう言いおわる頃にはすでに走り出している。煙でも立てそうな勢いで、瞬く間に教室から走り去った。
「やれやれ……しょうがない子だ」
一人残されたラファエルは、誰にともなく呟いた。
その表情はあきれながらも、ミカエルに対する惜しみない愛情を感じさせる、優しさに満ちたものだ。
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