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「ママ、トンボ飛んでるー」
舞が無邪気に騒いでいる。
稲穂や虫が、珍しいらしい。何回かは一緒に帰省してるのだが、物心ついてから着たのは初めてなので、新鮮なのだろう。
「早く家に帰らないと暗くなるよ」
二人、手を繋いで家路につく。
顔の広かった昨日の父の葬儀は、弔問客が多かった。そんなに慕われていたとは知らなかった。
──娘がとんでもない事をしでかしまして申し訳ありません……。
必死に謝っていた父の背中に、腹が立った。
「ママ、空赤いー」
元気にはしゃぐ舞を見て、思い出した。
──お父さん、赤トンボ。
公園で時間を忘れて遊んでいた私を、父が迎えに着た。
あの時もこうして手を繋いで、家に帰った。
──うるせぇ、クソ親父!!
成長してからは、迎えにくる場所が公園ではなく、別の場所になった。
必死に頭を下げる父。それに甘えていた事に気付かなかった、自分。
「ママ、何泣いてるの?」
舞が不思議そうに私を見上げている。
父がどんなに私を愛してくれていたか、今なら分かる。
あの日、夕焼け中を歩いた、父の気持ちが痛い程分かる。
お父さんありがとう。そして、さよなら。
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これは、1番のお気に入りです。
私は親ではないが、こういう文が書けるのは、歳取った証拠だろうなぁ。若い時だったら、絶対作れないかも。
これは名曲、「my sweet home」を思い出し、出来上がりました。
親の有り難みは、なかなか気付きにくいものです。
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