第一章

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小高い丘の上、草花が生い茂る草原に少年が顔を出し、薄紫色の髪が草花とともに風になびく。その頭上では、丘の上で身を休めていた小鳥が“休息を邪魔した少年を非難”するように鳴いている。 「あぁ、やっと見えた。……あと一息だ」 澄み渡った青空の下。丘から数歩下ったところで立ち止まり、300メートルほど先を見下ろす少年は大きな荷物を背負ったまま安堵の表情を浮かべる。 茶色の瞳は陽射しを浴びて、黄色に近い色で光を跳ね返していた。 手元には地図が広げられており、目先の位置にある国と同じ位置に記された記号の隣には大きな文字で“ガイクス”と記されている。現在のいる場所にもガイクス平野と、平たくはないがそう書かれている。その見晴らし良好な小高い丘の上で、手元の地図を折り畳む。 「ここまで来れたから地図は必要無いな。目的の場所は目と鼻の先」 “ガイクス王国”、それが今少年の眼前に広がる国の名前であり、九つになる前日まで住んでいた故郷である。 ガイクス王国の領土は広大で、遠くから眺望(ちょうぼう)しても端から端まで外壁しか映らない。さすがに丘の上からということもあり見下ろす形にはなっているが、それでも外壁の天辺は少年と同じ高さにある。 故郷を離れてから五年以上経ち、少年、…サイラス・ローシアは14歳になった。身長は170センチほどまで急成長のように伸びたが止まってしまう。顔達はこれといった特徴もなく、良くも悪くもない。いたって普通だと自己評価している。 リアナは元気にしているだろうか。手紙くらい書いたほうが良かったかな。そんな心配事ばかりが増えていく。いや、書かないのもまた旅の醍醐味。 「まぁ…勝手にガイクス離れて、便りの一つもなしにの里帰りまでしたんだ、“ただいま”なんて言ったら。リアナは兎も角」…母さんは怒るだろうな。という最後の言葉は飲み下した。
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