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「確かに迂回 すれば険しい道だけどある事は知っています。初めて通ってきたけど、あっちの道はかなりの遠回りになりそうだから魔法を使いながら最短距離で崖を登ってきてみました」
魔法と聞いた老兵は「ああ、魔法を使ったならば来れないこともないか」 と納得の表情を見せる。
サイラスは老兵がすぐに納得してくれたことに関心を持ちながら「はい、魔法を使えば登りきるのにそこまで難しい崖じゃぁありませんでした。あとさっきの話だけど旅じゃなくて故郷に帰ってきただけです」と老兵の物分かりの良さに興味を持ちながら話を戻した。
「それに、俺の家は ここの門から入らないと遠回りになるんですよ」
頭部は何も被らず、長年に渡って身に付けているのか重装備が不思議に似合う老兵に、これからガイクスに住むのだと告げた。
「おっ? そうなのかそうなのかこれは失礼。こちらの区画に家があると言う事は、私ともどこかで会っているかもしれないな。あーもしかするとそろそろ学園の入学式があるからそちらの関係だったりもするのかね……して、君の名前は?」
「サイラス・ローシア! もう忘れちゃった? おっちゃん…」
「…なんと?」
だからサイラス・ローシアだって、とサイラスは改めて老兵に名前を名乗る。その直後“おっちゃん”と呼ばれた老兵は眉間に皺(しわ)が寄っていく。
そして口の端をみるみる吊り下げていく老兵に、サイラスはまじまじと凝視された。
しかし、今一ピンとこないのか。老兵は先端が三つに割れ十字を形作る長槍に体を持たれ掛け、数秒思案。やっとの事で口を開く。
「サイラス・ローシア……はて? どこじゃったか、サイラス・ローシア…ロシーア? ……ってもしかして近所のガキか」
おっちゃん惚けたのか? と言葉にしたいが現役で働いてる訳だし……うん! 元気そうでなによりだ。
サイラスはうなずいて、昔お世話になった老兵の言葉を肯定する。世話になったといっても、今のような兵士の姿ではなく近所の道場で “師範代を務めていたおっちゃん”としての老兵に、である。
「ただいまっ!!」
驚きに目を見開く老兵に、 サイラスは満面の笑みで笑って見せた。
そしてうかつにも、おっちゃんがおしゃべりが大好きな老人だと言うことを忘れており、師範代であったおっちゃんがなぜ老兵になったのかといういきさつを1時間ほど説明された。
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