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昔、町の警吏であった雲彦(うんげん)が夜、家に帰る途中、頭巾を目深にかぶった女に出会った。
雲彦の前を歩く見るからに怪しい風体をした女は時々雲彦の方を振り返りながらどんどんと歩く速度を早めていった。
やがて寂しい小道へ出ると雲彦は女の横へ並び声をかけた。
「お待ちなさい。ここはよく首のない鬼が出ると聞く。それにここから先は森だ。あなたはどこへ行かれるおつもりか?」
雲彦の問を目深に頭巾をかぶった女はやや俯き加減で聞いていた。
馬に乗った雲彦からは女が若いのかそれとも老女なのかまったくわからない。
すると突然、女は考えられないほどの速さでするすると走り出した。
森の中へと駈け出した女を半ば何かに憑かれたように追いかけた雲彦はやがて1本の木の下で女の被っていた頭巾が宙に舞うのを見た。
女の首から上が見当たらなかった。
雲彦は驚いて馬を止めるとその木の周辺から何人もの人間の気配がした。
それは女と同様頭巾を目深にかぶった男女だった。
そしてその木には実の代わりにたくさんの人の首が泣きながら必死に何かを訴えていた。
雲彦は必死で馬を走らせ、気がつくと小道に出ていた。
翌朝、雲彦がその木のところへ行くと首などは生っておらず代わりに桃の実が生っていた。
雲彦が木の根元を掘るとそこからは大量の人骨が出てきたという。
それは数年前の飢饉で殺された犠牲者の骨だった。
雲彦は手厚くそれを葬ったという。
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