第1章 ―舞い降りた雪―

2/9
前へ
/70ページ
次へ
-2004年12月24日 PM9:00- 「…っはぁぁ~」 東京の騒がしい夜の道を俺は肩を落しながら歩いていた。 「ったく!なぁにが『あなたの歌は生きていない』だぁ!そんなわけのわからんアドバイスで新人が育つかってんだ!」 ちっ、っ舌打ちをしながら小石を蹴飛ばした。 三年前に歌手になるために家族の反対を押し切り上京してきた。が…、全く成功する気配もなく、今年も終わろうとしていた。 そして、今夜もオーディションに落ちて帰宅中というわけで…。 「あぁ…くそっ!今年もダメだったか…」 そう呟きながら俺はいつもの場所に向かっていた。 いつもの場所…。 そこは、上京してからほぼ毎日歌の練習をしている場所で、最初は一人でアコギを弾きながら歌っていたのだが、三年目にまでなるとギャラリーが集まり、今では毎回聴きに来てくれるお得意様までいる始末だ。 さらにはたまにギターケースにお金まで入れてくれる人もいて、実は結構助かっている。 オーディション会場から歩く事20分、いつもの場所についた。 -神成公園 PM9:20- 「あっ!来た来た。オーディションどうだったぁ?」 「寒かったよ~、待ちくたびれた!」 いるいる、売れない歌手志望の数少ないファン達が…。 「あぁ、ダメだった…」 俺は正直に答えた。 「そうか…。まぁあれだ、俺達がいるからさ…また来年頑張ればいーよ」 おまえら… ありがとうな。ほんとに感謝してるよ。 「っし!んじゃ今夜も歌いますか、気合い入れっからよく聞いとけよ?」 俺はゆっくり目を閉じた。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加