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「綺麗…。」
稔麿が月を眺めている頃、同じ様に月を眺めている少女がいた。
その少女がいるのは偶然にも天乃屋の中庭だった。
縁側に腰をかけ、隣には黒猫が寝ている。
大人びた顔つきで肌が雪の様に白く、頬はほんのりと朱く染めている。
長く結っていない髪は、この時代には珍しい茶色に近い色をしている。
正に“美しい”少女だった。
「見て、翠(スイ)。
凄く綺麗な月よ?」
少女は隣で丸くなって寝ている黒猫に話しかける。
その声に反応した翠と呼ばれた猫は眼を開き、少女を見上げた。
翠の眼は、深く、澄んだ翠色(ミドリイロ)という珍しい色をしていた。
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