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「お疲れ様でした」
「武蔵のお陰だよ、ありがとう」
「役に立てて嬉しいです」
照れを隠すように腕の中に顔を埋めた武蔵。
花子は筆記用具を片付けながら、小首を傾いだ。
「何かお礼がしたいんだけど、欲しいものある?」
「欲しいもの?」
「うん!何でもいいよ?ジュース?肉まん?たい焼き?」
「何でもいいんですか?」
「うん!あ、でも、お財布の中身で足りるくらいが…」
「花ちゃんの」
「……え?」
「花ちゃんのキスが欲しいです」
――――えっ。
その漆黒の瞳は真剣そのもので、花子は思わず息を飲む。
腕を机につけたまま体を起こす武蔵。
花子の表情を伺うように首を傾け、大きなその手で頬に触れてくる。
「いいですか?」
ひどい胸の高鳴りを感じ、おもむろに両手を握りしめた。
「それは…ちょと。武蔵、他のに…」
「いやです」
はっきりとした、否定の言葉に、花子の方が魔法にかかったように動けなくなる。
男の子を思わせる、節くれだった細長い指が、幾度も頬を撫で、耳を撫でる。
「~~っ」
緊張とドキドキはピークに達し、目を白黒させる花子。
そこでようやく武蔵は、ぽつりと呟いた。
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